昨晩の対イタリア戦、両軍無得点で迎えた3回裏一死一塁で大谷選手の打順。ここで初球セーフティバントを決めて相手エラーを誘い、一気に一死一・三塁としたのがゲームの分岐点だった。
痺れる場面だったなぁ。
大谷選手の打撃は分析され尽くしていて、イタリアチームもよくそのデータを消化している。大谷選手はいつでもリスクを冒して思い切り打ってくるし、その打球はセカンドよりも右方向に飛ぶことが圧倒的に多い。内野に飛んだ打球はできればセカンドに送球して一塁走者をアウトにしたいということでイタリアの守備は打者から見て右方向に厚めの布陣となった。つまり逆にいえば三塁方面はガラ空きになっていた。
だから、後付けで考えれば、三塁方向にバントで転がして、自分も生きる、一死一・二塁にするというのは、厚い守備陣を突破してヒットを打つことに比べれば遥かに成功率の高い選択であることは実は明らかだったと言える。
が、それはないだろうな、と思わせていたのは大谷選手がこれまで築いてきたイメージ、リスクを恐れず打っていく、守備陣形を気にせず打っていくというイメージだったと思う。それがあったから、この局面で三塁付近がガラ空きになったのだ。
だからこのチョイスは頻繁に使えるものではない。次に同じシチュエーションになったら、相手チームはセーフティバントの可能性を考慮するだろう。
案の定、まさかのバントで守備は乱れ、ようやく捕球した投手が一塁に悪送球して一塁ランナーが三塁まで進むことができた。
バント自体は、そんなに綺麗に決まったわけではない。あまり練習もしていないんだろう。
ここで我々が見たのは、野球というのはチームで行うチェスだというシーンだ。相手チームの思考の裏をかく。素晴らしい一瞬だった。野球の知的側面が堪能できた。
これはノーサインだろうなあ。であれば、優れた個人技を持つプレイヤーとして認識されている大谷選手だが、実はチーム対チームという意識を人一倍強く持って、チェス的に考えることのできる稀な選手ということになる。素晴らしい。